ホームレス問題。ネーミングライツ。強制排除。LGBT。同性パートナーシップ条例。
資本と公共・排除と包摂の狭間にゆれる渋谷。
そんな都市の真ん中で、17年以上にわたって野宿者支援活動を行っている団体が「のじれん─渋谷・野宿者の生存と生活をかちとる自由連合」です。
のじれんとは──
1998年に設立された支援者と当事者からなる野宿者支援団体です。ホームレス支援についてはさまざまな考え方があると思いますが、私たち「のじれん」が最も大切にしているのは、ホームレスの方々との「関係づくり」です。
思い込みや決めつけをやめて、まず当事者の話を聞いてみること。その上で、必要な支援やあるべき社会のかたちを考えること。私たち「のじれん」は、その原点に繰り返し立ち戻りながら、炊き出し(共同炊事)、パトロール(夜回り)、生活相談・医療相談などの取り組みを行っています。
主に毎週土曜日の共同炊事とパトロールを中心に、活動を行っている「のじれん」。現在、そのメンバーのひとりとして活動に携わっているのが室田大樹さんです。
今回は室田さんに、どうしてご自身が「のじれん」に関わるようになったかの経緯と、団体の独特の在り方について、また今後のビジョンなどについて、インタビューしました!
目次
きっかけ~たまたま出会った「のじれん」
── 最初の質問なんですが、いつも「あなたは何者ですか?」とお聞きしているんです。のじれんで何か役職につかれたりしているのですか?
室田:していません。「のじれん」は思想として「組織を作らない」んですよ。これは私の思想というより、先人の思想ですけれど。だから「のじれん」は代表もいないし、事務もいないんです。だから、私の場合は「のじれんの活動に参加している室田さん」ですかね。
── 学生時代から、野宿者問題に関心があったんですか?
室田:大学の専攻は社会学でしたけれど、特定の問題に関心があったわけでもなく、ぼんやり勉強していました。
── 福祉系をかじっていたわけでもないのですね?
室田:福祉は興味なかったですよ。今でもあんまり興味がないです。支援団体へのボランティアなども参加したことがありませんでした。いや、実は一回、大学在学中に他団体のボランティアセミナーに参加したことがあったんですけれど「そうか、問題なんだな」と思ったきり、特にそのまま動くこともしなくて。やっぱり関心を持ったり興味を持つことと、実際自分の体を動かすことの間には、結構大きな壁があると思っていました。私はその「行動に移す」という大きな壁をずっと超えられずにいて、大学時代はそんな後ろめたさが心の隅にありました。
── そんな室田さんが、どういった経緯で野宿者支援に関わるようになったのですか?
室田:大学を卒業したあと、就職したんです。それで生活の基本が仕事だけになると、仕事だけじゃ物足りないと思い始めたんですね。さすがに初年度はバタバタでしたけれど、ちょっと慣れると何か別のこともやってみようかと思うようになりました。じゃあ何を、と思った時に、やっぱり社会問題に関心があったんですね。ただ、本などから勉強した知識って、要するに人からの借り物の知識なわけで説得力がないじゃないですか。そうじゃない、根っこに何らかの人の肉声や現場があるような世界から、自分だけの視点があったらいいなと思うようになったんです。そう思っていたので、別に野宿者問題に特化して関心があったわけじゃなく、たまたま出会ったのが野宿者問題だったという実感に近いですね。
── でも、いろいろな団体がある中で、「のじれん」に決めた理由はなんだったんですか?
室田:それもネットで貧困支援関連を検索した時、たまたまサイトを見つけたからです。通いやすい範囲だったし、毎週土曜日炊き出しやっていますと書いてあったので、じゃあ行ってみようかと。それが2013年の6月ですね。今考えれば良い出会いだったと思います。
「表情があるのだ」という発見
── 当時の「のじれん」はボランティア参加者向けに、たとえばオリエンテーションなどは行っていたんですか?
室田:いや、全然。今と同じように「連絡もいりません、直接来て下さい」とサイトに書いてありました。でも、不安なのでメールで「行っていいですか?」と問い合わせたんです。そしたら「来て下さい」と言われて。
── 「のじれん」に参加した初日は、どんな様子でした?
室田:率直な感想として、みんなで野菜切ってごはん作ってワイワイやって「楽しいなー」ぐらいでした。
── その当時、一番強く印象に残ったことを教えて下さい。
室田:表情、ですかね。街で出会う野宿者って、すれ違う時でも寝ている時でも、基本無表情なんですよ。むしろ目が合わないように下を向いている方も多い。けれど、炊き出しの空間で一緒にご飯を作っていると、当然怒りもするし笑いもする。からかってくれる(笑)。そんな「表情がある」という当たり前のことに驚いたり気づいたりしたことが、心に残っていますね。
── 室田さんが野宿者と実際にお話されたのは、それが初めてだったんですか? 最初から普通に話し掛けられました?
室田:それは大丈夫でしたよ。むしろ新しくて若いボランティアへは、野宿の仲間の方から「若いの、よく来たな」みたいに話し掛けてもらえることが多かったので、すぐに打ち解けられました。
── そこから定期的に参加するようになった?
室田:はい。でも、最初は月1~2回くらいですね。毎週参加せねば、とは思ってなかったし、まぁたまに行こうかなくらいの気持ちでした。
── それでも定期的に関わってみようと思ったのは何故ですか?
室田:その空間に行くと常に新しい発見や気づきがあって、楽しかったからですよね。
「自由を増やす」ということ
── そうしているうちに2013年12月28日、、宮下公園からの強制排除がありましたね。
室田:はい。
── 室田さんが「のじれん」に深く参加するようになるのは、このあたりからでしょうか? また、はっきりしたきっかけがありましたらお教え下さい。
室田:その頃はまだ深く、というわけではなかったと思います。ただ、やっていくうちに、慣れてきたみたいなところがあります。
室田:「のじれん」の考え方や目線の動かし方って、あまり世の中の人に理解されにくいと思うんですよ。そんな中で自分は、一緒に活動をし、話を注意深く聞くことで、彼らが何を考えてどう動くのかを理解するようになりました。すると、自分自身でも同じような考え方や目線の動かし方が出来るようになったんですね。
── 具体的にはどういった考え方が、世の中の人に理解されないと思われるのですか?
室田:ともに活動する支援者の言葉を借りると「自由を増やす」考え方になるんですけれど。野宿者に何かをすることが支援なのではなく、彼らが取り得る自由や選択肢の幅を増やすことが支援ということですね。行政も民間の支援者も、世の中の支援のほとんどは、支援の側が「人としてあるべき理想の生活」や「理想の人生」を持っていて、それに引っ張ることが支援だと思っている。だから、体がぼろぼろでも「俺はここがいいんだ」と頑なに路上生活を維持するタイプの野宿者に対して、「生活保護を取らないですか?」「はやく施設入りましょう」「その方が楽ですよ」と、一生懸命声かけをする。それも別にあってもいいとは思うけれど、ただ一番は当事者が何を望んでいるかだと思うんですよ。その考え方の違いをきちんと揺るぎなく持ち、当事者の自由と意思を尊重する。それが「のじれん」で徹底されている考え方ですね。
「非効率」という視点
室田:共同炊事にしても、あれはわざと作業を増やしているんですよ。野菜を切ってごはんを作ることは、手際よく行えば人が3~4人いれば出来る作業しかしていない。でも、そうではなくてああやって一緒に作業することで会話も生まれる。わざと非効率にしているんですね。今の社会の思想とは、全然逆のことをやっている。
── 逆、ですか?
今の社会って全部能力がある人が持ち分を多くというという構成になっているじゃないですか。これは「生活保護」も一緒で、ある程度コミュニケーションがとれて、お金の管理が出来て、ケースワーカーとうまくやれる人が制度を使える。そうやっていると、結局何も出来ない人が路上に残っていく結果になるじゃないですか。果てにそういう人は、「生活保護があるのに制度を拒否するひねくれ者」のレッテルを貼られて、ますます困難な状況に押しやられていく。そういうのはやめにしよう、誰も取り残さない視点で考えていこう、と。
── なるほど、興味深いです。そういう考え方って、室田さん自身、最初から飲み込めましたか?
室田:それはだんだん、だんだんですよ。最初は理解出来なかった。「何やっているだろ、これ」と思って、聞いたり、肌で感じたりしていました。それこそ疑問だらけでした。でも、疑問だらけだからこそ、面白かったんですね。自分が全然知らない思考や発想で動いている組織だと分かったことで、それが逆に面白かった。だからこそ、聞いているうちに独特の思考が理解出るようになったし、それを通じて思想への共感が生まれていきました。
「のじれん」がボランティアに求めること
── 「のじれん」にボランティアしたい、という希望者は結構いらっしゃいますか?
室田:それは、はい。でも定着しないんですよ。
── 何故でしょう?
室田:それは私も聞きたいですけれど(笑)。まぁ、やはり「のじれん」のやっていることが独特だからだと思います。すごく野宿者と近いので、直に会話もするし、時にはトラブルもおきる。活動も思想自体も理解しにくい。それらのハードルが高いんじゃないかとは思うんです。貧困問題に興味があっても、多くの人が抵抗を感じるのだろうと思います。
── そのハードルを低くしよう、ということは考えたりしますか?
室田:いや、無理してハードルを低くしようとは思っていないです。冷たい言い方になりますけれど、それで入れないのならしょうがないなと。だって、良くも悪くも私達が野宿の世界を荒らしているわけですよ。炊き出しをしたりして良いことをやっているようだけれど、要するに野宿を強いられるほどではない、ある程度ゆとりがある人間が、いわば土足でずかずかと彼らの世界に入っているわけです。それに対して、ボランティアの人を入りやすくして、野宿の人が入りにくくなるのは、本末転倒じゃないですか。
── あくまで野宿の方の生活があって、そこにお邪魔しているという感覚なのですね。
室田:野宿の仲間の生活が第一なので。市民の論理を無理に持ち込ませることはしたくないです。例えばせっかく活動に参加しているのに、野宿者そっちのけでボランティア同士が楽しくしゃべっているのは好ましくないので、ある程度野宿者と会話するのが楽しいと思う人が入ってくれないと、やっぱりダメだと思うんですよ。
今後の「のじれん」~レインボーアクションとのコラボ
── 室田さんとしては、今後「のじれん」の活動はどのように展開していきたいと考えていますか?
室田:この前(2015年3月20日)にNPO法人レインボー・アクションと連携する形で「同性パートナーシップと野宿者排除~渋谷区・人権・使い分け」というイベントを開催したんですが、あれはよかったと思います。向こうは貧困の問題ではなく、アイデンティティや承認の問題じゃないですか。違う問題を扱っているのが渋谷を通じて繋がれるということが良かったと思いますし、これからどんどん広げていかなきゃいけないと思っています。
── どういった経緯でスタートしたのですか?
室田:こちらから話を持ちかけました。レインボーアクションの代表の島田暁さんが、ご自身のTwitterで、のじれんが渋谷区で活動していることを受けて「セクシャルマイノリティにも貧困は同じ問題としてあり、だから渋谷区はセクシャルマイノリティの人権だけでなくホームレスの人権も尊重すべき」との趣旨のことを呟いてくださったんですよ。それをお見受けしたので、これはちょっと話が出来ないかと思って、最初こちらからリプライを飛ばしたんです。そうしたら乗ってくださって、それがご縁ですね。それであちらから、ちょうど渋谷区のパートナーシップ条例で企画を考えていると、それにのじれんさんも話して貰えませんかと話が進んで、共催みたいな形でイベントが出来たんです。
── そういった経緯だったのですね。
室田:その上で、共同炊事を中心としてこれまでやってきた活動を粛々と続けること。ひとつのコミュニティとして週一回この場に来れば話せる仲間がいるし、ごはんも食べられるという、常に路上でひらかれている空間であるということは、やはり意識して大切にしていきたいです。(了)