みなさんは「ハウジング・ファースト」という取り組みをご存じでしょうか?
それは主にホームレス状態におちいった方に対しての新しい支援アプローチ方法です。日本を含む従来の支援施策は、安定した住まいを失った当事者をまずは一時施設に保護することが多く、劣悪な住環境のことが多いそれら施設にいることに耐えられず、飛び出してしまい、結局は十分な支援に至らない状況が今もなお起こっています。
一方「ハウジング・ファースト」は、ともかく一番最初に最初に安定した住居(アパート)を提供し、そこに住んでもらった状態から支援を開始するという考え方です。海外で始まった先進的な取り組みとして、現在日本でも広がってきています。
今回はそんなハウジング・ファースト支援に取り組むアメリカ フィラデルフィアの団体Pathways to Housing PAが制作した動画をご紹介します。
(日本語字幕制作:ハウジング・ファースト東京プロジェクト・翻訳チーム)
「1992年だよ。ホームレスになっちまったのは」そう語るのはパスウェイズ利用者のビクター。
「ヤク中でアル中で通行人から小銭せびって、他人頼みの毎日さ。俺のこと気にかけてくれたり、助けてくれたり、そんな人間が現れるなんて思いもよらなかった」
「ごみ溜めの中で3年暮らした。そこでだよ。パスウェイズがやってきて、ゴミ箱から出してくれた。連中、こう言うんだよ。」
「あなたにアパートを保証しましょう。住む場所をです」
「パスウェイズは極めて限定された人々の支援を目的としてフィラデルフィアでの活動を依頼されました。(それは)慢性的にホームレス状態にある人たちです」そう語るのは、パスウェイズPA事務局長のクリスティン。
「5、10、15年、さらには20年もの間、路上生活をしてきた人たちであり、長年、重篤な精神疾患をかかえている方も多くいます。従来の支援プログラムをいくつも利用したものの、どれもうまくいかなかった人たちや、人知れず路上生活を続け、とうとう支援とつながることがなかった人たちにパスウェイズはこれまで決して提供されなかったものを提供します」
「自分の部屋です」
「ヘロインとコカイン依存に苦しんでいたの」そう語るのはパスウェイズ利用者のラキア。
「苦しくて、もう死んでしまおうと思って、まさに死のうかという、その直前にパスウェイズが現れたのよ」
サービスコーディネーターのモーリスは語ります。「パスウェイズはとにかく最高なんだ。人に評価を下すってことがない。あるがままをそのまま受け容れて、まずはとにかく住まいをくれる」
「自由に出入りができて、身の安全を感じられる。ドアには自分で鍵もかけられる。それ自体がとても大きなことなんです。」(クリスティン)
ラキアは祈ります。「パスウェイズを届けてくれて、神様ありがとう。パスウェイズが現れなかったら、今でも依存症に苦しみながら、路上に居たんだわ」
「5年間、ホームレス状態だったよ」と自らの経験を語るのはパスウェイズ利用者のマイク。「外はとても辛いよ。外は人間が住むところじゃない。家に入れて、はじめて人間らしく振る舞える」
マイクの部屋にパスウェイズ コーディネーターのカリーマが訪れます。「どう?料理とか、ガス台の使い方とかうまくいってる?」「順調だよ。今日は掃除のやり方を復習したよ。」
「私たちは、利用者一人一人に対してチームで関わっていきます。ソーシャルワーカー、精神科医、訪問看護師など、多職種で協働します」(クリスティン)
「この人は、ボクの、ボクの……。そう、ケースワーカーだ。すごくいい人だよ。ほんと……。えーと、名前なんだっけ?」「カリーマよ!」
パスウェイズ利用者のドナルドの声。「フライドチキンを自分で作れる。ここで朝ごはんも作れる」
「フライパンもある。すごくありがたい」
パスウェイズ チームリーダーのブライアン。「私たちパスウェイズは、住まいは人権であり、人は誰も安全な住まいで暮らす権利があると考えます。アパートに移って自分で管理できる空間の鍵を持つということはまさしくその人の尊厳を確約するものです」
「しかし住まいの確保からもう一歩先を目指します。問題の根っこにある医療的な心配事を他人に伝わるよう言葉にするお手伝いをすること。そして地域とのつながりを取り戻すことによって、健康状態を改善し、生活の質を向上させること。それが私たちのゴールです」(ブライアン)
パスウェイズ利用者のウィリアムも喜びを隠しきれません。「まるで新しい日々だよ。人生やり直しているみたいだ。」
「路上生活していた時ほど疲れなくなったよ。だって、今は部屋があるからね。ぼくの、自分の部屋」
「自分の食料だ。下にもたっぷり食べ物がある。なかなか慣れないな。こんなにたっぷりと食料があるなんて」そう語るのはパスウェイズ利用者のカール。
パスウェイズ コーディネーターのキャシーが誇ります。「カールとは、彼がこのプログラムを始めた当初からのお付き合いですが、大成功者の一人ですね。すごく変わりました。私達ももちろんサポートはしますが 彼自身、大変な努力をするのです。そんなカールは私たちの誇りですね」
「ぼくはこのプログラムを完全に信頼してるよ。ぼくのニーズにぴたりとマッチした、痒いところに手の届くようなプランさ」「アパートを見て、我が目を疑ったよ。まるでぼくのためにあつらえたみたいな部屋じゃないか。」(カール)
「ハウジング・ファーストが素晴らしいのは、新たな施設建設が不要で、また指定区域を気にしなくて良い点です。町の不動産屋が扱っているアパートを借りて、ホームレス状態の人たちに路上から移ってもらう。それだけのことです」(クリスティン)
「でも、その結果路上生活を脱出するお手伝いができるばかりか、街の経済活性化に一役買うことにもなるわけです。空き室が余っているのに更に増やすなんてしません。放っておけば空っぽのままの部屋を、どんどん活用していくのです」
フィラデルフィア市の上層部であるポールも、そのめざましい成果に驚きを隠せません。「初めてパスウェイズのことを聞いた時には、正直言って、とんでもない考えだと思いました」
「(パスウェイズの)プログラムの内容を知れば知るほど、道理に適うことが分かりました。被害妄想に苦しんでいたら、他人を信用したり、既存のルールに従って生活するのは至難の業だからです。そんな人が、20人もの他人と寝食を共にする施設に入所するわけがないのです」
「ある意味では、「ハウジング・ファースト」という考えは、従来の支援モデルにおける優先順位を逆転したに過ぎないのですが、その成功率は従来型の手法の3倍に及んでいます。ハウジング・ファーストは並外れて重要なプログラムであると私は思うのです」
再びパスウェイズ利用者のビクター。「このゴミ箱の中で3年寝てたんだよ。今じゃパスウェイズがくれたアパートで暮らしてるんだ。自由に開け閉めできるドアのついたアパートをオレにくれたんだ。分かるかい? こんな日が来るなんて、夢にも思わなかったよ」
「ずっと気分が良くなった。ものの考え方も、何もかもが変わったよ。だってぼくは今アパートで暮らしてるんだ。もう、ホームレスじゃないんだ」(パスウェイズ利用者ウィリアム)
「実際のところ、ハウジング・ファーストを利用してもらい、健康で幸福な地域生活を送るために必要なサービスを提供すれば、費用の面で負担が少ないのです。ホームレス状態で放置しておくよりも」(クリスティン)
「もう心配することはなくなったよ。通りに放り出されることもないんだ。好きに出入りできるんだ。カギがあるからね。パスウェイズがいるから」(ウィリアム)
「本当に長い間待ってた。パスウェイズと出会えて最高だ」と語るパスウェイズ利用者のブラッドリー。
「パスウェイズには良くしてもらってるの。しょっちゅうワケが分からなくなっちゃうでしょう、アタシって。独りでいられない性分だし。その点、パスウェイズはよく分かってるわよ、『精神衛生』ってのが。」(ラキア)
「腰を下ろしてゆっくり話をしたり、ちゃんとした料理を作ったり、テレビを見たり、音楽を聴いたり、パズルしたり。路上じゃできないだろう、こういうことって」(カール)
「カギなしじゃ出かけられないよ。どこへ行くんだってカギは手放さないさ。ぜったい忘れないんだ」(ウィリアム)
そして最後に、再びビクターが路上生活時代の体験を語り始めます。彼が涙ながらに語る「路上生活でつらかった出来事」とは?
その万感の思いがあふれるラストは、是非動画にてお確かめ下さい。