「第四回路上文学賞」始まる!:実行委員・清本周平さんに聞く「ホームレスと共生する多様性の場としての文学賞」

ホームレス生活者が書いた作品を募るユニークな文学賞として、写真家の高松英昭さんと作家の星野智幸さんが2010年に立ち上げた「路上文学賞」
過去三回にわたり述べ100作品以上が集まった本賞が、また今年も開催されます。

開催毎に規模を大きくし、今回で遂に第四回目を迎える本賞。
今回は路上文学賞実行委員会のメンバーである清本周平さんにお話を伺い、内部から見える「路上文学賞」の魅力について熱く語っていただきました。
回を重ねる間に変わったもの、あるいは変わらなかったものは何だったのでしょうか? 第四回に向けての新たな取り組み、そして清本さんご自身が実行委員として関わり始めたきっかけと、関わり続ける動機についても伺いました。

実行委員の清本周平さん

清本周平さんプロフィール。
1989年生まれ。学生時代、CSR専門メディア 「オルタナS」の運営に関わる。現在は会社員をしながら、路上文学賞実行委員会に関わる。

「路上文学賞」って何?──多様性の場として

── 今回で第四回目の応募となる路上文学賞ですが、実行に関わる側として大切にしているコンセプトはありますか?

清本:路上文学賞は、今現在広い意味でホームレス状態にある方、また過去一度でもそのような状態にあった方なら、だれも応募できる文学賞です。作品をいろいろな人に読んでもらうことを目的としていますが、団体として標榜しているコンセプトとしては、これは「祭り」であると考えています。ひとつの場所にみんなが集まって、自分達の気持ちをぶつけ、昇華させる。そういう意味で「祭り」なんですね。

それと同時に、実行チームのひとりとして僕は「路上文学賞は多様性の場にしたい」と考えています。読み手と書き手、それぞれの多様性ですね。書き手の方でいうと、未だに紋切り型で捉えられがちの「ホームレス」も実際は多様で、単純に路上にいる人以外にも、ネットカフェ難民、マックで一夜を明かしている人、家出をして友達の家を転々としているような人、様々な「ホームレス」の形がある。

一方、読み手の側にも、私たち「路上文学賞」の実行委員会には翻訳家のような文学者寄りの人もいれば、僕も含めて会社員の人もいる。ネットの向こう側の読者に目を向ければ、支援に関わっている人は当然多いし、逆に「ホームレス」というものを知らない人間も、この手の問題に対して攻撃的に振る舞ってくる人もいる。個人個人で考え方は当然違うので、多様な考えをもつ「読み手」を歓迎したいです。「路上文学賞」という媒体がさまざまな思想のぶつかり合う場になればいい、というのが個人的な思いですね。

転換点だった第三回

── 応募作品や、応募者の傾向にはどんなことがいえるでしょうか?

清本:作品については応募作品を全て読んでいるのが星野さんだけなんですよ。だから僕も一部の作品を読んだにすぎないのですが、傾向についてはウェブサイトに星野さんが書いていたように「自分史」と「お母さん」をテーマにした作品が多かった印象です。

ただ、応募者に関していえば、やはり第三回で大賞を取った鳥居さんに衝撃を受けた委員はいました。未だに会の飲み会なんかで話題になりますから。ホームレスに若者が増えているという事実は認識していましたが、それがまだ若い女性で、セーラー服を着て活動していて、原稿はデジタライズされている。そして彼女の属性とは関係なく、作品内容が素晴らしい。良い意味で驚きでしたよね。

何も知らない人から見ると「この人のどこがホームレスなのか?」とい思われる方もいらしゃるかも知れませんが、一般的に想起されやすい「中年男性」だけが「ホームレス」なのではないということが多くの方に伝わるといいなと思っています。今年の路上文学賞も、また私達の想定を超えた作品の応募を楽しみにしています。

「文学」を担保する星野智幸のまなざし

── 前述にもありましたが、選者としては星野さんが責任を持ち、彼が全作品を読んで選ぶという形なのでしょうか?

清本:そうですね。第二回の実施の折、選考過程をNHKに取材を受けたのですが、星野さんが河原で原稿を読んでいる様子が放送されました。路上文学賞の「路上」部分、「ホームレス」の定義は社会的にも難しいところですが、「文学」の部分については星野智幸という小説家がフェアに選評し、作者自身のユニークさではなく、あくまで作品としての美しさを評価するから、この文学賞は成り立っていると思いますね。

── その割には、星野さんが積極的に前に出てはいないですよね。実行委員会はどのような形式になっているのですか?

清本:実行委員会自体は主宰者の星野さんと高松さんを中心としたボランティアの集まりです。毎回ミーティングなどに集まって継続的に関わっているのが10名弱ぐらいでしょうか。職業もいろいろで、NPO関係の方もいらっしゃるし会社員もいる、翻訳家も司法書士目指して夢に向かっている人もいる。

だから考え方も多様で、ミーティングしても基本的に話がまとまらないんですよ。高松さんは路上よりの視点に立ちやすいので、路上色が考え方に出る。僕なんかはどちらかというと社会側、一般から見てどう見えるかを重要視する。そんな風に文学賞の打ち出し方ひとつとってみても、みんな考え方がばらばらですよね。

たとえばマーケティング的に考えると、一番簡単なのはおっしゃるように「星野智幸」という作家を前面に立たせて、星野智幸のファンを引っ張り込むのが楽なんです。ですが、それは路上文学賞そのものの価値ではなく、星野智幸という作家の価値で訴求しているだけで、星野さんもそんなことは求めていない。それをやったら簡単に社会にアピール出来て、アクセスもお金も集まるかもしれないけれど、そういう話じゃないんですね。

「じゃあどう打ち出していくのか?」というところで、自分達の思いを正確に伝える方法を議論していく。実行員会の一員として曖昧で悶々としながら、五里霧中の中で進んでいく過程を楽しんで活動しています。

清本さんと路上との出会い

── 清本さんご自身は「ホームレス」支援にどのように関わっておられたのですか?

清本: 貧困問題には学生時代からずっと興味があったんですが、どちらかといえば海外の問題に関心がありました。ただ、当時はお金がなかったので実際に現地へいくことは難しかったんです。じゃあどうやって貧困問題に触れられるかな、と考えた時に「そうだ、日本にもホームレス生活を送る人がいる」と思いつきまして、ネットで調べたら「新宿中央公園」がキーワードとしてあって、じゃあ行ってみようと。そんな短絡思考がスタートだったんです。行って、公園の中にいらっしゃった方に緊張しながら声を掛けました。

── いきなり声を掛けたんですか?

清本:そうです。情報どころか知識もノウハウも何もなかったので、ただ「今日いい天気だね」「タバコ一本吸う?」ってラジオを聞いているところに話し掛けたんです。それで最初10分か15分くらい二人で無言でタバコを吸ってから、そこからなんとなく「ここ長いの?」みたいな風に話が始まって、少しずつ仲良くなって、そこから結局週2~3回のペースで半年くらい通っていました。当時はまだそこで新宿連絡会の炊き出しが毎週日曜日おこなわれていたので「よかったら日曜日おいでよ」と他のホームレスの方達にも誘われて、行ってみたりしていました。

── 連絡会にはボランティアとして参加したのですか?

清本:いえ、ホームレス生活者の視点を学びたいと思っていたので、一緒に炊き出しの列に並んでいました(笑)。常連から「早く来ると三回くらい回れるよ」と教えて貰って一緒に先頭へ並んだり、仲良くなった方が僕のために新聞紙で席を取っておいてくれたり、そんな交流を続けていたんです。

ちょうどその頃ビッグイシュー基金のサッカーチーム「野武士ジャパン」がホームレスワールドカップ出場のための練習を、新宿中央公園内の運動コートでやっていたんですね。そのメンバーの方から「ホームレスの人? 君若いからサッカー一緒に練習しない?」と声を掛けられて。自分がホームレスではないことは説明したんですが、それでも構わないといわれたので、中学時代サッカー経験もあるし「じゃあ、やりますか!」と練習に参加し始めました。これがビッグイシューと関わり始めたきっかけです。

それからサッカーの練習に毎週参加するようになって、同じく練習に来ていた星野さんと知り合いになりました。当時は作家さんだということはよく知らなかったんですけれど。サッカーを通じて親しくする中で「じゃあ今度路上文学賞というものがあるんだけれど、よかったら手伝ってくれない?」と誘われたんです。それで第二回選考の終わり頃から関わるようになり、現在に至っています。

クラウドファンディング開始! 「路上図書館」という試み

── 9月1日から、「READYFOR?」にて路上文学賞としては初のクラウドファンディングをスタートされています。第四回においての初めての試みですが、ここに至るまで議論はあったのですか?

清本:はい。僕としては二年前から提案していたのですが、実行員会内部でも議論が紛糾して、やっと今回の実施となりました。やはり一番懸念したことが、クラウドファンディングを行う過程で本賞のことをあまりに拡散させると、応募してくれる路上生活者個人に対してネット上で攻撃されるのではないか、という点でした。一方で拡散することで様々な人に文学賞を知って欲しい、作品を読んで欲しい、という気持ちも当然あって、悩ましいところでした。

あとは出資してくれた方へのプレゼントを考える段で「出資額によって見返りを変えるのはおかしい。それは出す側の所得の問題であって、応援してくれる思いは変わらないはず。だから3,000円から50,000円まで全て冊子3冊で揃えよう」というような意見が出たりして、なかなか意見がまとまりませんでしたね。

── 一万円以上出資のプレゼントである「好きな本をみんなで楽しむ! – 路上図書館」という試みが新しいです。

清本:これは自分の好きな本を何冊か持ってきて、それをホームレスの人に配ることで交流の場を作るという企画で、実施は来年の1月頃に出来ればと考えています。ただ、これも「路上生活者を一つの商材とすることになるのではないか」と意見が出て、名称や要項について慎重に検討を重ねました。最終的に形にすることが出来たので、是非クラウドファンディングにご協力いただいた上でご参加下さればとありがたいです。

「路上」と「文学」はすごく似ている~共生する場を一緒に作りませんか?

清本:自分はいわゆる「野宿者支援活動」というものに違和感を感じていたし、そもそも自分がやりたいとは思わなかったんですね。路上生活者にご飯を配ったりするより、一緒にタバコを吸いながら話をしていたかった。だからこそ、僕は「路上文学賞」の活動にすごくはまったんです。

星野さんがどこかで書いていて、僕も強く共感した言説なんですが「『路上文学賞』とは、文学を媒体に社会と路上生活者が寄り合う場所」なのだと。一般の人が一方的に路上生活者へアプローチして何かをしてあげる場所ではないし、世の中が路上生活者に対して何かを求める場所でもなくて、ちょうど一般社会と路上生活者の間に「路上」があるように、そこに「文学」があってもいいのだと。路上と文学はすごく似ているのだと。

その言説が、僕の中では違和感なく受け入れられたんですね。一方的な支援という枠組みではなく、逆に彼らと共生する場作りとして、路上文学賞というものに関わり、広めていきたいと思ったんです。だからこそ、四年以上この活動に関わっているし、今後も関わっていきたいと考えています。

現在クラウドファンディング実施中の「路上文学賞」は、第四回作品募集を2015年10月1日~31日に予定しています。今後もこの場を通じて多様な試みをしていきたいと考えていますので、どうか皆さまの応援、よろしくお願いします。

── ありがとうございました。[了]