児童擁護施設を退所された方の困難さに着目し、そのアフターケアをおこなっている「アフターケア相談所ゆずりは」。
そんな「ゆずりは」が今度立ち上げるプロジェクト「児童養護施設等退所者の方の働くことを支援する工房を開設したい」は見事クラウドファンディングの第一目標を達成し、現在プロジェクトをよりよいものとするための第二目標に挑戦中です。
ファンディングの最中も着々と工事は進行しており、間近に迫ったお披露目の日へ向け準備中。
今回はそんな新生「ゆずりは」へお邪魔し、現在の様子と工房へ実際に関わる当事者スタッフの方のお話をお伺いしました!
「ゆずりは」ジャム、もう間もなく発送です!
お邪魔した日はちょうど新設された工房キッチンにて、瓶詰めしたジャムのラベル貼りの真っ最中! 間近に迫ったお披露目の日に備え、既に200個以上が準備万端とのこと。
また、ジャムにつける美しいタグも出来ていました。
工房キッチンでは新たな開発商品として「ゆずみそ」の試作中でした。こちらも好評なら、ジャムに続き商品化をしていく予定とのことです。
当事者スタッフ徳光涼子さんに聞く「来る人が報われる働く場所」としての工房
このように器の準備は万端ですが、では実際に「ゆずりは」へ繋がり、今後工房とも関わろうとしている当事者の方は、どのような思いを抱いてここにおられるのでしょうか?
お話をうかがったのは徳光涼子さん。もともと児童擁護施設を退所された当事者として「ゆずりは」へ繋がり、現在はスタッフとして関わってらっしゃる方です。
── 徳光さんが「ゆずりは」に繋がるきっかけとはどんなものだったのでしょうか?
徳光:私はもともと九州の児童養護施設の出身だったのですが、そこを18歳で退所したあと、通勤寮(※障がいを持った方の就労自立を目的とする寮)に入りました。ですが、その生活というのがまるで刑務所のようなもので、すごく厳しかったんです。
朝起きるとランニング、ラジオ体操、掃除と続き、それから仕事にいきます。自由時間というものがとにかくありません。休日だって出かけられない。寮職員から「そんなことをしている場合ではない。まずは自立が先だろう」と外出を許可してくれません。持ち物も生活必需品のみで、趣味のものは置いておけない。職員もとにかく上から目線で「お前らは障がい者なんだ」という物言いで、絶対服従を強要される場所でした。
そんな通勤寮に2年間いて、その後はやっと寮近くのアパートに一人暮らしが出来ましたが、それでも通帳管理などは寮職員が引き続きやっていたので、本当の自由はありませんでした。そんなアパート生活を6年続け、結局嫌になって27歳の時に親類を頼って関東に出てきました。ただ、親類もあまり頼りにならず、職探しや家探しをひとりでやらなくてはならなくなり、とても苦労しました。
そうやって関東で約6年頑張ってきたのですが、仕事が辛かったり生き辛かったり、周囲に話せる人がいないことで孤独を感じて、九州に帰りたいという思いを強くしていました。ただ、九州にも頼る人はなく、また自分ひとりで仕事探しや家探しをしなければならない難しさを考えて、どこにもいけず悩んでいたところでした。
そんな時、九州の知人がたまたま北九州の新聞に「ゆずりは」が掲載されていたことを教えてくれたんです。「ゆずりは」という相談所が出来て、そこでは児童養護施設を退所された方を対象にしているということだったので、知人が「ゆずりは」へ問い合わせてくれました。
すぐに高橋亜美さんから「直接お話を聞きますよ」と返事をもらい、数日後に亜美さんと面会することが出来たことが、「ゆずりは」と繋がったきっかけです。
── そうしてお会いした高橋亜美さんですが、第一印象として徳光さんはどうお感じになられましたか?
徳光:もう、今も変わらず見たそのまんまですね(笑)。会う前は今までの経験から施設職員や福祉職員をあまり信用していませんでした。だから最初に「ゆずりは」を紹介された時も、内心信頼出来ないのではないかと構えていたんです。でも、実際に亜美さんにお会いしたら、安心感があり、こちらと距離を置かないんですね。
九州の寮にいた時、私は本当はボランティアをやりたかったのですが、それを寮の職員は「ボランティアなんてやっている場合じゃない」と許してくれませんでした。けれど、亜美さんにお会いして、そんな自分の思いを話したら、すぐに「涼子さん、週一回程度で、ゆずりはでお掃除など手伝ってくれませんか?」と提案してくれました。私のことを理解してくれて、やりたいことをやらせてくれたんです。
── 今現在、徳光さんは「ゆずりは」でどのようなことをされていますか?
徳光:木曜日の高卒認定学習会と、金曜日のサロンを中心に当事者スタッフとして勤務しています。主にその時の見守りやお茶出し、事務所内の書類の整理、会計処理などもやっています。自分がやりたいと思っていたことを今やれて、居心地がよいし、働きやすいです。
── ご自身の体験から、他の「ゆずりは」の利用者や新しく工房に関わる方に触れてみて、どのように感じておられますか?
徳光:新しい工房では、私は見守りをしつつ一緒に発送のお手伝いをしていく予定ですが、やっぱり他の利用者の方と関わって「困難だったのは自分だけではないのだな」という思いがあります。そして自分が大変だった経験があるからこそ、他の人に寄り添えるし、寄り添う気持ちが自然とこみ上げてきます。
自分も一般企業で働いていた時には、転職をくりかえしてきました。そんな風に自分ながらに「働くこと」がうまくいかないことに「なんでこうなるのだろう」と己を責めたりもしてきました。ですがこの「ゆずりは工房」はそんな思いをしなくてもいい働く場所です。自分を責めたりする必要のない職場で働くということは、きっと本人にとって励みになります。
プロジェクト「児童養護施設等退所者の方の働くことを支援する工房を開設したい」は新しいことなので、不安もあります。でも「ゆずりは」だからこそ出来る試みだな、とも感じています。サロンのようにゆるやかにやっていきつつ、来る人が報われる場所になればいいと思います。
「働くこと」は生きるための大きな支え
リニューアルされた「ゆずりは」のパンフレットにはこう書かれています。
本来誰もが「健全に働けること」を望み「働くこと」は生きるための大きな支えになることも、「働けない苦しみ」を抱えた相談者の方々から気付かせていただきました。
(ゆずりは工房での就労支援を通じて)就労に困難を抱えた方が、自分のいまできる働き方を見いだし、「働く喜び」を感じてもらえるようになっていただけたらと思います。
徳光さんや「ゆずりは」に繋がる困難を抱えた方々が必要とする「自分を責める必要のない」、働く喜びを感じてもらえる職場。そのような場所が今、生まれようとしています!